ウィリス動脈輪の仕組みと構成|脳動脈瘤やもやもや病の危険度と覚え方
脳への血流供給を司る最も洗練されたセーフティネットが「ウィリス動脈輪(脳底動脈輪)」です。17世紀の英国人医師トーマス・ウィリスによって詳細に記録されたこの血管輪は、左右の内頸動脈系と椎骨・脳底動脈系という2大血流ルートを脳底部で連結し、万が一の主幹動脈閉塞時にも血流を迂回させる「側副血行路」として生命維持に直結する役割を果たしています。
一方で、血流の分岐部にかかる物理的負荷から「脳動脈瘤」の好発部位となり、くも膜下出血の発生源としても知られています。また、国の指定難病である「もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)」の首座でもあります。医療現場や国家試験対策で必須となる解剖学的構成から臨床現場の実態、効率的な覚え方まで、最新の知見を交えて徹底的に解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:ウィリス動脈輪は前大脳動脈・前交通動脈・内頸動脈・後交通動脈・後大脳動脈で形成される「天然のバイパス血管網」である。
- 要点2:分岐部の血流負荷により脳動脈瘤が発生しやすく、破裂によるくも膜下出血やもやもや病の病態把握において最重要の解剖構造となる。
- 要点3:教科書通りの「完全な輪」を持つ人は全体の約4割程度であり、破格(バリエーション)の存在が虚血耐性や治療戦略を大きく左右する。
【基本解剖】ウィリス動脈輪の役割と構成動脈|血流を支えるバイパスの仕組み
ウィリス動脈輪は、間脳の視交叉や下垂体を取り囲むように脳底部に位置する環状の動脈吻合(ふんごう)です。前方の「内頸動脈系」と後方の「椎骨・脳底動脈系」を結びつけることで、左右・前後の血圧差や血流不全を補正するバックアップ機能を担っています。
解剖学的にウィリス動脈輪を直接構成する動脈は、以下の5種類の血管(左右対+不対)に限定されます。
- 前大脳動脈(ACA: Anterior Cerebral Artery):左右に存在し、前頭葉内側面などを灌流。
- 前交通動脈(ACom: Anterior Communicating Artery):左右の前大脳動脈同士を橋渡しする1本の血管。
- 内頸動脈(ICA: Internal Carotid Artery):前大脳動脈と中大脳動脈に分岐する手前の終末部。
- 後交通動脈(PCom: Posterior Communicating Artery):内頸動脈と後大脳動脈を連結する左右の血管。
- 後大脳動脈(PCA: Posterior Cerebral Artery):脳底動脈から分岐し、後頭葉などを灌流する左右の血管。
ここで臨床的にも試験対策上も極めて重要なのが、「中大脳動脈(MCA)」と「脳底動脈(BA)」はウィリス動脈輪の直接の構成要素に含まれないという事実です。中大脳動脈は内頸動脈から外側へ直接分岐する主要幹であり、環の一部そのものを形成しているわけではありません。

【試験対策】ウィリス動脈輪の簡単な覚え方と看護国家試験頻出ポイント
看護師国家試験や理学療法士・作業療法士の国試において、ウィリス動脈輪は解剖生理学の超頻出テーマです。複雑に見える構造も、模式図を「五角形(ペンタゴン)」または「六角形の環」としてイメージすることで瞬時に整理できます。
暗記を確実にするための代表的な語呂合わせと位置関係の整理法は以下の通りです。
【鉄板の語呂合わせ:時計回りの配置】
「前(まえ)の前交(ぜんこう)、内(うち)の後交(こうこう)、後(うしろ)の脳底(のうてい)へ」
・前:前大脳動脈
・前交:前交通動脈
・内:内頸動脈
・後交:後交通動脈
・後:後大脳動脈
国試の過去問で最も多く仕掛けられるトラップは「ウィリス動脈輪を構成するのはどれか」という設問で選択肢に「中大脳動脈」や「椎骨動脈」を混ぜるパターンです。中大脳動脈は脳梗塞の好発部位として圧倒的な知名度を持つため誤認しやすいですが、「外側に伸びる枝であって輪ではない」と視覚的に叩き込んでおくことが失点を防ぐ決め手になります。
【臨床データ比較】血流障害の原因と三大疾患(脳動脈瘤・もやもや病・閉塞)
ウィリス動脈輪は血流を維持する防御壁であると同時に、血行動態的ストレスが集中する脆弱部位でもあります。臨床上極めて重要な3大病態をデータとともに整理します。
| 疾患・病態 | 好発部位・発症メカニズム | 頻度・客観的データ指標 | 臨床現場での留意点 |
|---|---|---|---|
| 脳動脈瘤 (くも膜下出血) | 前交通動脈(ACom)、内頸・後交通動脈分岐部(IC-PC)などの血管分岐部 | 脳動脈瘤の約85〜90%がウィリス動脈輪周囲に局在。年間破裂率は約1%前後 | 激しい頭痛(バットで殴られたような衝撃)。クリッピング術またはコイル塞栓術の適応 |
| もやもや病 (ウィリス動脈輪閉塞症) | 両側の内頸動脈終末部および前・中大脳動脈起始部の進行性狭窄・閉塞 | 東アジアに多発。感受性遺伝子RNF213が深く関与。小児と30〜40代女性にピーク | 小児期の一過性脳虚血発作(過呼吸時の脱力)、成人期の頭蓋内出血リスク |
| 主幹動脈閉塞と 側副血行路不全 | アテローム硬化や心原性塞栓による内頸動脈・中大脳動脈の急性・慢性閉塞 | 完全なウィリス動脈輪を有する割合は健常人の約20〜45%に留まる | 後交通動脈などの低形成がある場合、主幹動脈閉塞時に広範な脳梗塞へ進展しやすい |

【病態の深層】くも膜下出血の好発部位とウィリス動脈輪に脳動脈瘤ができる理由
脳動脈瘤がなぜウィリス動脈輪に集中するのかという問いは、脳血管特有の解剖学的弱点と流体力学(ヘモダイナミクス)によって説明されます。
脳底部の動脈は体幹の血管に比べて中膜の平滑筋層が薄く、外膜も脆弱です。さらに動脈が分岐する「Y字路」の頂点部では、拍出された血液のジェット流が常に衝突するため、内弾性板と呼ばれる弾性繊維が長年の血圧負荷で断裂を起こします。この微小な破綻部に持続的な血圧がかかることで血管壁が風船のように膨らみ、嚢状動脈瘤が形成されます。
日本脳卒中学会などのガイドラインでも示されている通り、くも膜下出血の原因となる破裂動脈瘤の好発部位は明確に偏っています。
- 前交通動脈瘤(ACom瘤):約30%(左右の血流が激突する部位)
- 内頸動脈-後交通動脈分岐部瘤(IC-PCom瘤):約25%(動眼神経麻痺による眼瞼下垂・複視が初発症状になりやすい)
- 中大脳動脈分岐部瘤(MCA瘤):約20%
- 脳底動脈先端部瘤(BA tip瘤):約5〜10%
特にIC-PCom瘤が急速に拡大した際、近接する動眼神経を圧迫して「片方のまぶたが急に下がってきた」「瞳孔が開いて光が入ると眩しい」といった神経症状が現れるケースは、切迫破裂の警告サインとして救急医療において極めて重視されます。
【実態検証】もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)と側副血行路の発達
厚生労働省の指定難病22に認定されている「もやもや病」は、正式病名を「ウィリス動脈輪閉塞症」と呼びます。この疾患の本質は、ウィリス動脈輪の主要幹である内頸動脈終末部が原因不明の肥厚によって徐々に狭窄・閉塞していく現象にあります。
脳は酸欠状態を回避するため、細い血管を網の目のように異常拡張させて代償的なバイパス(側副血行路)を構築します。脳血管造影検査を行うと、この細く縮れた血管群が「煙草の煙がもやもやと立ち上るように見える」ことから、世界共通の医学用語として「Moyamoya disease」と名付けられました。
現場の診療データでは、発症年齢によって臨床像が明確に二極化します。
- 小児期(5〜10歳前後):熱いラーメンや味噌汁を冷ますために「フーフー」と息を吹きかけたり、大泣きして過呼吸になると、血中二酸化炭素濃度が低下して脳血管が収縮。一時的に手足の麻痺や脱力発作(TIA)を起こす。
- 成人期(30〜40代):長年酷使された脆弱なもやもや血管に血圧負荷がかかり続け、血管破裂による脳出血・脳室内出血を発症するリスクが高まる。
かつては原因不明とされていましたが、近年の分子遺伝学研究により感受性遺伝子「RNF213(p.R4810K変異)」が同定され、東アジア圏における遺伝的素因と環境因子の複合的影響が解き明かされつつあります。

一般に知られていない盲点とネットの誤解|「完全な輪」を持つ人は半数以下?
医学書や解剖図譜には左右対称の美しい円形として描かれるウィリス動脈輪ですが、「教科書通りの完全な輪を生まれつき持っている人」は成人全体の20%から45%程度にすぎないという事実は、一般にはあまり知られていません。
半数以上の人間は、先天的または加齢変化による「破格(血管の低形成・無形成・走行異常)」を有しています。
- 後交通動脈の低形成または欠損:片側または両側のPComが極めて細いか存在しない。前後の血流融通が遮断される。
- 胎児型後大脳動脈(Fetal PCA):後大脳動脈が脳底動脈からではなく、内頸動脈から直接太く起始する形態(約15〜20%にみられる)。
- 前大脳動脈A1区域の低形成:前交通動脈より手前の動脈が細く、片側の内頸動脈から両側の前頭葉へ血液を送っている状態。
「血管の一部が細い、あるいは繋がっていない」と脳ドックで指摘されて強い不安を抱く受診者も少なくありませんが、無症状であれば単なる個体差(破格)であり、病気そのものを意味するわけではありません。ただし、将来的に動脈硬化等で太い血管が詰まった際、側副血行路が機能しにくく脳梗塞のリスクが高まる要因にはなり得るため、血圧や脂質の徹底管理が推奨されます。
【プロの結論】画像診断・臨床現場から見出すべき教訓
ウィリス動脈輪の構造的バリエーションを把握することは、脳血管内治療(カテーテル血栓回収療法など)の成功率を左右する最重要情報です。自身の血管構築が「完全型」か「破格型」かを把握しておくことは、将来的な脳卒中発症時の虚血耐性や治療選択肢を予測する上で大きな医療的価値を持ちます。
【ウィリス 動脈 輪】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ウィリス動脈輪に中大脳動脈(MCA)は含まれますか?
A1:含まれません。中大脳動脈は内頸動脈の太い主幹枝ですが、環状のループそのものを形成する構成血管ではありません。国家試験等でも最大の引っかけ問題として出題されます。
Q2:脳ドックのMRA検査で「ウィリス動脈輪の一部が描出されない」と言われましたが大丈夫でしょうか?
A2:多くは先天的な破格(後交通動脈や前大脳動脈A1区域の低形成・無形成)であり、直ちに治療が必要な疾患ではありません。ただし予備の血流ルートが少ない状態と言えるため、高血圧や脂質異常症などの動脈硬化リスクを通常以上に厳格に管理することが重要です。
Q3:もやもや病と診断された場合、ウィリス動脈輪の手術が必要になりますか?
A3:もやもや病に対しては、閉塞したウィリス動脈輪そのものを修復するのではなく、頭皮の血管(浅側頭動脈など)を脳表面の動脈(中大脳動脈など)に直接繋ぐ「頭蓋内外血行再建術(バイパス手術)」が標準的な治療法として選択されます。
まとめ:脳血流のセーフティネットを理解し臨床・健康管理に活かす
ウィリス動脈輪は、左右の内頸動脈と脳底動脈を結びつけ、脳への恒常的な酸素・栄養供給を維持するための極めて高度なバイパス構造です。前大脳動脈、前交通動脈、内頸動脈、後交通動脈、後大脳動脈からなるこの環状構造を正しく理解することは、医療従事者にとって必須の基礎知識であると同時に、脳動脈瘤やくも膜下出血、もやもや病といった重篤な脳血管障害の予防・早期診断に直結します。
解剖学的な特徴や個体差によるバリエーションを正確に把握し、画像所見や臨床症状と結びつけて捉えることが、質の高い医療判断と適切な健康リスク管理への第一歩となります。 (出典: ウィリス 動脈 輪(Yahoo!ニュース))