大相撲を支える職人「床山」の真実!階級と年収・資格の実態
大相撲中継や本場所の土俵で力士たちが誇らしげに結っている「ちょんまげ」や、関取だけが結うことを許される華麗な「大銀杏(おおいちょう)」。その美しい髪型を一手に担い、力士の象徴を作り上げている職人が「床山(とこやま)」です。土俵上を司る行司や土俵作法を支える呼出と並び、大相撲の伝統を支える極めて重要な三裏方の一つに数えられます。
定員わずか50名前後という狭き門であり、力士と同じく相撲部屋に所属して寝食を共にする独特の生活様式を持つため、その実態は長らく厚いベールに包まれてきました。本稿では、床山の具体的な仕事内容から知られざる階級制度、年収・待遇の実態、歌舞伎の床山との決定的な違いまで、現場の証言や相撲協会の規定データを交えて詳しく解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:床山は大相撲力士の実髪を結う専任職人であり、日本相撲協会における定員は約50名に厳格に定められている。
- 要点2:理容師・美容師免許は不要だが、採用資格は「義務教育修了以上・満19歳まで」と極めて若年層に限定された徒弟制度である。
- 要点3:見習いから特等床山まで6段階の階級があり、年収相場は200万円台からベテラン最高位で800万円前後に達する。
力士の命である髷を創り出す存在|「床山」の基本的な仕事内容と役割
床山(大相撲)の主たる任務は、各相撲部屋に所属する力士の髪を整え、伝統的な髷(まげ)を結い上げることです。力士の髪型には、十両以上の関取が本場所や準公式の場で結う「大銀杏」と、幕下以下の力士が日常的および取組時に結う「丁髷(ちょんまげ)」の2種類が存在します。
相撲部屋の朝は早く、稽古が終わった力士から順に床山の前に座ります。激しいぶつかり稽古で砂と汗にまみれた力士の髪を洗い、梳(す)き、鬢付け油(びんづけあぶら)を丹念に擦り込みながら、和紙で作られた強靭な紐である元結(もとゆい)で一気に縛り上げます。関取1人の大銀杏を結い上げる所要時間はわずか10分〜15分程度。手際の良さと力加減、力士ごとの頭の形や毛量に合わせた絶妙なバランス感覚が求められます。
巡業や本場所中は、早朝から夕方の取組終了まで休む間もなく髷の乱れを直し、土俵へと送り出します。単に髪を結うだけでなく、緊張感が高まる力士の背中を押す精神的支柱としての役割も担っています。

【徹底比較】行司・呼出との違いと床山独自の階級制度・年収事情
日本相撲協会の専属裏方である行司、呼出、床山は、いずれも相撲部屋に所属し、力士と同様に厳格な階級社会に生きています。床山には現在、下位から順に「五等床山」から最高位の「特等床山」まで6段階の階級が設定されています。
| 階級 | 経験年数・定員基準 | 担当する力士の目安 | 推定年収・給与水準 |
|---|---|---|---|
| 特等床山 | 勤続45年以上または年齢60歳以上(定員2名以内) | 横綱・大関 | 約700万〜850万円 |
| 一等床山 | 勤続30年以上(手腕優秀な者) | 幕内・三役力士 | 約550万〜700万円 |
| 二等床山 | 勤続20年以上 | 十両・幕内力士 | 約450万〜550万円 |
| 三等床山 | 勤続10年以上 | 幕下・十両力士 | 約350万〜450万円 |
| 四等床山 | 勤続5年以上 | 三段目・幕下力士 | 約280万〜350万円 |
| 五等床山 | 見習い〜勤続5年未満 | 序ノ口・序二段力士 | 約180万〜250万円 |
床山は日本相撲協会の正規職員(専属職人)として扱われるため、協会から月々の基本給や各種手当、賞与が支給されます。さらに、担当する関取や後援会から「祝儀(心づけ)」を受け取る慣習があり、実質的な総収入は協会の規定給与を上回るケースが一般的です。定年は原則65歳で、規定に沿った退職金・養老金制度も完備されています。
【実態検証】過酷な修行期間と現場のリアル|道具へのこだわりと伝統技
相撲部屋に入門した床山見習いは、最初の数年間、ハサミや櫛を握る前に部屋の雑務や力士たちの生活サポートを徹底して叩き込まれます。大相撲の世界には「床山の専門学校」のような教育機関は存在せず、先輩床山の指使いや手捌きを目で盗み、兄弟子の頭を借りて実践を繰り返す「完全徒弟制」の中で技術を磨きます。
床山が使用する道具類には、職人の魂が宿っています。
- 木櫛(つげ櫛):髪を梳かす「荒櫛(あらぐし)」、整える「揃え櫛(そろえぐし)」、髪筋を美しく立てる「筋立て(すじだて)」など、用途別に5種類以上の櫛を使い分けます。職人が手彫りした高級つげ櫛は一生モノです。
- 鬢付け油(オーラボ):固さの異なる油を季節や室温、力士の髪質に応じて調合。強烈な粘り気と特有の甘い香りが大相撲の空間を作り出します。
- 元結(もとゆい):細い和紙を撚って作られた丈夫な紐。歯で強く噛み締めながら、力士の頭皮を締め付けすぎず、激しい頭のぶつかり合いでも決して解けない絶妙な力加減で結び留めます。
大銀杏を一人前に結えるようになるまでには最低でも10年の歳月を要すると言われており、横綱の髷を結う重圧と誇りは、長年の修練を耐え抜いた者だけが味わえる境地です。

一般に知られていない盲点と誤解|歌舞伎の床山との違いや美容師免許の要否
世間一般において「床山」という言葉から受けるイメージには、いくつかの誤解が存在します。
誤解1:美容師・理容師の国家資格が必要である?
一般のヘアサロンとは異なり、大相撲の床山になるために国家資格は一切不要です。相撲協会の規定に基づき採用され、部屋内部の伝承によって技術を修得するため、学歴や資格の有無ではなく「入門の早さと手先の器用さ・忍耐力」が重視されます。
誤解2:歌舞伎の床山と大相撲の床山は同じ仕事?
同じ「床山」という名称を用いますが、構造と所属組織が全く異なります。
- 大相撲の床山:生きている力士の「自毛(地毛)」を直接結い上げます。所属は日本相撲協会および各相撲部屋です。
- 歌舞伎・演劇の床山:役者が被る「かつら(鬘)」の土台作りや毛植え、結髪を行う専門職です。主に松竹衣装や専門の劇団かつら製作会社に所属しています。
地毛を扱う大相撲の床山は、力士の毛量減少や生え癖、日々の体調変化にリアルタイムで対応する柔軟性が求められます。
日本相撲協会の採用資格と弟子入りの壁|大銀杏を結えるようになるまで
床山を目指すための公式ルートは極めて限られています。日本相撲協会の採用規定では、応募資格が以下のように定められています。
【床山採用の基本条件】
・義務教育(中学校)を修了していること
・採用時の年齢が満19歳以下であること
・相撲部屋の師匠(親方)を通じて日本相撲協会に推薦・採用申請されること
定員が約50名と定められているため、「欠員が出た場合のみ新規募集が行われる」という高い参入障壁があります。一般の求人媒体に募集が出ることは稀で、知人の紹介や相撲部屋への直接相談・門前弟子入りを通じて門戸が開かれるケースが大半です。
【プロの結論】床山の道に向いている人・覚悟が必要な人の判断基準
床山は単なるヘアメイク職人ではなく、相撲部屋という伝統的共同体に身を捧げる生き方そのものです。
- 向いている人の特徴:手先が極めて器用な人、集団生活や上下関係に馴染める人、地道な反復作業を何年も苦にせず継続できる高い忍耐力を持つ人。
- 覚悟が必要な人の特徴:プライベートと仕事の完全な分離を求める人、早期の経済的成功や自由な時間を重視する人。
思春期の若さで伝統世界に飛び込み、親方や兄弟子、力士たちと寝食を共にしながら絆を深める「職人共同体」への適応が成否を分けます。

【床山 と は】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:床山の名前(床〇)はどうやって決まるのですか?
A1:入門すると師匠や所属部屋の先輩床山から「床」の字を冠した雅号(専門の呼び名)が与えられます。例えば「床鶴」「床蜂」「床朝」のように、部屋の伝統や由緒ある一文字を組み合わせるのが通例です。
Q2:担当する力士はどうやって決まるのですか?
A2:基本的には所属する相撲部屋の力士を担当します。ただし、上位の関取(横綱・大関など)に対して自部屋に上位の床山がいない場合、一門(部屋のグループ)内の上位床山が出向いて結う体制が取られます。
Q3:力士が引退する時の「断髪式」で床山は何をしますか?
A3:断髪式では、親族や関係者が少しずつ髷にハサミを入れた後、最後に師匠の親方が大銀杏を切り落とします。その後、控室で力士の頭を整髪料やハサミを使って一般人の髪型(七三分けやオールバック等)に整え直す「最後の仕上げ」を床山が務めます。
Q4:女性でも大相撲の床山になることはできますか?
A4:現行の日本相撲協会の規定および相撲部屋の共同生活環境(女人禁制の伝統や部屋住み込み制度)から、大相撲の床山は男性に限定されています。一方、歌舞伎や時代劇の床山業界では多くの女性技術者が第一線で活躍しています。
まとめ:伝統を継承する職人の誇りと今後の展望
大相撲の象徴である大銀杏と丁髷は、何百年もの歴史の中で研ぎ澄まされてきた床山の指先から生み出されています。10代で角界の門を叩き、厳しい徒弟制度の下で黙々と技を磨き続ける床山たちの存在なくして、日本の国技・大相撲の美しさは成り立ちません。
定員制と若年採用という伝統の枠組みを守りながら、力士の熱戦を最も身近な場所で支える床山。土俵上の力士の勇姿を観戦する際は、ぜひその頭上に結い上げられた芸術的な髷の美しさと、それを創り出す職人の卓越した技術に注目してみてください。 (出典: 床山 と は(Yahoo!ニュース))